◆原子力艦船事故に備え・横須賀市・職員の行動計画盛る
米海軍横須賀基地に寄港する米原子力艦船の事故に備えるため、横須賀市は六日、同市独自の
「原子力軍艦事故防災マニュアル」を策定した。同日開かれた定例記者会見で発表した。米原子力艦船事故に的を絞った防災計画の策定は、全国でも初めて。市全域を防災対策を充実すべき地域と規定し、災害時の住民への広報活動や避難誘導、被ばくを防ぐためのヨウ素剤の事前備蓄などの具体策を
盛り込んでいる。国も今後、国としての対応策を検討していく方針を示している。
同市は昨年四月、市消防局に専従の職員を配置し、米原子力艦船の事故に備えた市独自のマニュ
アルづくりに着手。国内の原子力発電所についての防災計画を参考にしながら、市民の安全を確保する上で同市が取るべき具体的な行動計画を練り上げてきた。
マニュアルは、総論、事前対策、応急対策、復旧対策の計四編で構成し、広報文例などの具体的な
対応手順もまとめている。事故の国際評価尺度としては、昨年九月の東海村臨界事故を上回る「レベル5」(所外へのリスクを伴う事故)を想定しているという。
まず事前対策としては、職員を原子力防災の研修会に参加させることや市民向けのしおりの配布、住
民の避難誘導などの訓練の実施を規定。放射線防護資機材の整備や甲状腺被ばくを抑制するヨウ素剤の備蓄も進めるとしている。
応急対策編では、事故を覚知した場合は直ちに同市に市長を本部長とする「原子力軍艦事故災害対
策本部」を設置し、情報や指示の一元化を図ることや、市民への広報活動、避難誘導手順などを提示。事故終息後の復旧対策としては、市民の健康診断の実施や風評被害を食い止めるための市長名の安
全証明証の発行などを盛り込んでいる。
同市は一九八一年から二十年間にわたって、国に対し原子力艦船の事故対策を要望してきた。しか
し、国は「原子力艦船の事故は想定していない」との見解を示すばかりのため、あくまでも同市独自の危機管理策として、マニュアル策定に着手した経緯がある。
しかし、昨年九月の東海村臨界事故をきっかけに状況は一変。国は原子力艦船についても「万が一
事故が起きた際の対応を自治体と協議したい」との認識を示すとともに、今年五月の国の防災基本計画の見直しでも、艦船事故について言及し「関係自治体の防災計画において、その対応に留意する」と
いう一文が盛られた。今回策定されたマニュアルは、皮肉にも臨界事故を契機として国の"お墨付き"が与えられた格好だ。
沢田秀男市長は会見で、「極めて具体的な方策が書かれており、事故時の自治体の役割としてはお
おむねのことは定められた」と述べた。その上で、「米艦船事故時の対策には国と自治体のそれぞれの役割がある。今回はその半分ができたにすぎず、国の部分は欠けたままだ」と指摘し、国としての対策
を引き続き要望していく考えを示した。
一方、国の防災基本計画を所管する国土庁は「原子力艦船の事故が起きた際の所管省庁はまだ決
まっていない。今後、国としてどういうことができるかを関係省庁と検討していきたい」としている。
原子力艦船は、横須賀市のほか、長崎県佐世保市、沖縄県勝連町の三港の米軍基地に寄港してい
る。寄港するのは原子力潜水艦がほとんどで、横須賀での滞港日数は今年すでに計七十日間に達した。横須賀市が防災マニュアルを策定したのを受けて、佐世保、沖縄も防災対策づくりに取り組む方針
を示している。
(神奈川新聞ホームページ・2000−7−7)