意見陳述             請求代表者 呉 東 正 彦 1、請求代表者の呉東正彦です。この横須賀市議会において、5万の市民の署名を添えて  制定請求された原子力空母の横須賀配備の是非と安全性を問う住民投票条例について、 意見陳述の場を与えて頂いたことに、心から感謝いたします。 2、議員のみなさん、この市議会を前に、みなさんたちと多くの話し合いの場をもち、ま たみなさんたちの新聞紙上でのご意見を拝見して、私は今回請求されている条例案が、 昨年2月に市議会で否決された条例案と内容が同じであると誤解を受けているとの感 を強くもちました。原子力空母配備という市民の将来にとって重要なことについては、 きちんと市民の賛否をきくべきだという底流と、その投票の結果が、国の専管事項では なく、市の固有の事務に向けられている点は同じものだとしても、今回の内容は前回と は大きく異なり、立場を超えた市民共通の性格のものになっていることをご説明しなく てはなりません。 3、1つ目は、住民投票によって原子力空母の横須賀配備の是非を問い、その結果を原子 力空母の使用する予定の米海軍横須賀基地の12号バースについての再度の港湾法協 議を国に求めるという、港湾管理者としての市の固有の事務に反映させることです。   蒲谷横須賀市長は、平成17年8月に12号バースの延長整備工事を許可した際、協 議内容を変更する場合、再度港湾法協議を国に求めるという条件、そして通常型空母を 前提として許可したのであって、原子力空母の使用に変更した場合には再度港湾法協議 を国に求めるという申し入れをしており、これが実現されないままになっています。市 民の意見をバックに、12号バースの原子力空母の使用に即した再協議を求め、その使 用を見直すことを求めることができるのです。 2月27日に出された浚渫協議に関する横浜地裁判決も、港湾法協議は単なる話し合 いではなく、市の国に対する行政処分であると言っています。港湾法は、地方自治体に 港湾管理権を与えたユニークな法律だから、その解釈の裁量も広いのです。もともと1 2号バースは、協議書の中に使用船舶は通常型空母とされ、それを前提として審査され ています。そしてこの時の市の協議回答書には、協議内容に変更を行う場合には、別途 協議を行うこと、とはっきり条件がつけられています。この時の協議の対象の12号バ ースの給水管、電気ケーブルは、通常の港湾施設としてしか耐震性が審査されていませ んが、横須賀市は直下型地震の際の横須賀基地の震度をHP上で7と予測しており、こ れらが切断されると、原子炉停止直後の原子力空母はメルトダウンの危険があります。 原子力空母が使用するならば、最近強化された日本の原子炉等の耐震審査基準によれば 原子炉の保安設備として最高レベルの耐震性が要求され、それが充たされていなければ 使用の停止を命ずることができるし、再度の耐震審査が安全確保のためにも必要です。 そしてこの施設は米軍に提供即ち貸与されているに過ぎませんから、その貸主である国 に港湾施設の安全性の改善を求めて協議を求めることは法的に全く問題はありません。  即ち、再協議は市が許可の際付けた遵守すべき法的条件であり、また市長自らが将来 的に原子力空母を念頭に置いて設備が変更される可能性も考慮したと報道機関にコメ ントしているのです。ところがまさにその条件が充たされたのに、市は国に再協議を求 めることすらしていません。自らが許可の際付けた条件の履行を求めるのは港湾管理者 の法的義務であり、それができないというならば、市民を欺くコメントをしたことにな らないでしょうか。 4 2つ目は、住民投票によって市民への原子力空母の安全性についての情報公開や説明 の十分性を問い、その結果をもとに、市民の安全を確保するために、市が国、米軍に対 し、より強い情報公開とチェック体制の充実を求める等の、安全対策の強化に反映させ るということです。  原子力空母が来てしまったら、それは何十年かの原子力空母母港の始まりであり、私 達市民が原子力空母とその間同居しなくてはなりません。その何十年間事故はいつ起こ るか分からず、特に大地震の時に津波の前の引潮、海底の隆起等によって、原子炉を冷 やす海水が取り入れられなくなったり、原子炉の冷却のための外部電力、冷却水の供給 が寸断された時が最も危険です。そして事故が起こったら、死の灰は風下数十キロに降 下し、首都圏一帯の住民がこれを吸入し、地表を汚染します。この横須賀でも、多数の 市民が致死量の放射能を浴び、白血病やガンとなり、更に遺伝子を傷つけて胎児や子供 次の世代まで被害は及び、自宅に住むこともできず経済活動もできなくなるのです。 事故が起こらなくとも原子炉のメンテナンス作業による放射能漏れや廃棄物が、基地 従業員や周辺住民に被害を与えます。そして原発と違い、日常も事故時も原子炉がどの ような状態にあるのかを、政府も横須賀市も一切チェックすることができないのです。 5、原発の例でも国や自治体と電力会社が一体化してしまったら、電力会社の事故隠しが 横行し、事故の端著となるトラブルが見逃され、本当の大事故を防ぐ事はできません。  しかし、昨年2月からの1年あまりの間に、米海軍による重大な事故隠し等が明らか になり、原子力空母の安全性を強調するファクトシートの信用性、市長のいう信頼関係 の基礎は崩れました。また市長は国が安全性を保障したと言いますが、原子力空母のた めの浚渫工事差止裁判の中で、国が原発と異なり、ファクトシート以外に原子力空母の 安全性を独自で具体的に検討した資料がないことが明らかになりました。横須賀市の安 全対策説明会の不十分さに市民が、市長、国、米軍の出席による公開討論会を申し入れ たところ、市長から簡単に拒絶されてしまいました。毎年行われてきた市民参加の原子 力軍艦事故による避難、医療訓練が昨年は行われず、今後も未定の状態です。市長自身 がかつて原子炉事故は起こらないと言われても起こりうると言っていたのに、いつの間 にか昨年秋の市の広報は事故は発生しないと考えますとなってしまいました。2009 年の修理を睨んだ米本国から大量の原子炉専門スタッフの移駐、原子力空母建造会社の 横須賀進出、6号ドックの修理の噂等、一旦母港化されれば、なし崩し的に危険な放射 能作業が深化するおそれがあるのに、国も市も何ら配備前に歯止めをかけようともして いません。まさに、このような国や米軍と一体化した市の安全対策と、その姿勢の後退 の中で、市民の安全は危機的状況にあります。 6、議員のみなさん、これから数十年間の市民の安全にとって、自治体は市民の傘となら ねばなりません。そして自治体がなすべきことは、国や米軍に下駄を預けることでも、 機密の壁に諦めてしまうことでもなく、米軍の主張を批判的に独自に検証し、国内の原 発に準じた情報公開とチェック体制の構築を強く求めること、すなわち、ものをいう姿 勢なのです。そのために、原子力空母の安全性についての説明、情報公開が十分かにつ いて意見を市民に問うことにより、その市民の意見をバックに、市が積極的に国、米軍 に対する情報公開とチェック体制の構築を求める安全対策を速やかにとるよう強く求 めることが、立場を超えて将来にわたって市民の安全を守り抜くため必要であり、プラ スとなるのです。残念ながら米兵犯罪が繰り返される、その再発防止に必要なのは、米 軍に強いプレッシャーを加えることであるのと同様に、住民投票によって多くの市民が 原子力空母の問題に高い関心があるということを米軍に示すことこそが、将来に渡って、 強いプレッシャーを米軍に与え、現実的に原子力空母が最悪の原子炉事故を起こさない ための最大の安全性の担保となるでしょう。 7、今回の署名活動を開始する時、前回より署名数が少なくなるのではないか、とのご意  見を何人かの人から頂きました。しかし、実際に開始してみると、前回を1万以上上回  る約5万の署名が集まりました。そしてこの署名の中で、様々な市民の方々から、様々  なご意見を頂き、たくさんの励ましを頂きました。その一部が、皆様にお届けしたチラ  シに載せられていますので、是非ご覧になって下さい。 この市民の予想以上の反響の大きさは、原子力空母の配備と安全性について、多くの 市民が重大な不安を抱いていることを示しています。と同時に自分たちが町の将来を決 めるという住民投票という手段が、大きな支持を得たことの現れと言えるでしょう。 いよいよ原子力空母が来るという切迫感の中で市民が抱いている切実な不安、そして 基地の街だから国が決めたことはしかたないと今まで諦めてきた横須賀でも、自分達が 自分達のことを決めたいという思い、今まさに市民の意識は大きく揺れ、変わりつつあ るのです。この市民の声を市長も議員の皆さんも正面から受け止めて頂きたいのです。 8、そして今、横須賀市民がこれから迎えようとしている、市民の安全についての未曾有 の危機に対して、市長は、そして市の職員の方たちは、本当に自分の問題として立ち向 かおうとしているのでしょうか。私は昨年秋、私達が求めた市長と国と米軍参加の安全 性説明会を簡単に断ってきたのには、本当にがっかりしました。前の市長、その前の市 長であったならばそこに汗をかくことを厭わなかったでしょう。そして今年の市主催の 賀詞交歓会のあいさつで、市長が原子力空母問題について、安全対策も含めて触れなか ったのに、更にがっかりしました。市長はすでに安全対策はほぼ確立された、もう解決 した問題と捉えているのではないのでしょうか。そして今回の市長の意見書が、国の専 権事項だからなじまないという前回と全く同じ紋切り型の内容しかないのにさらにが っかりしました。地方分権のフロントランナーという市役所の前にかかっていた旗はど こへ行ってしまったのでしょうか。そして市職員のみなさん、あなたたちは本当に自分 のこととして、市民の安全を守るため全力をあげて取り組んでいるのでしょうか。市民 のため体をはって汗をかくのではなく、長いものにまかれてラクをしようとしているの ではないのでしょうか。市民の守り刀たる法の与えた市の権限の大切さに気づかずに、 幻影に怯えてサビつかせているのではないのでしょうか。そしてこの状況を変えるパワ ーの源は市民の声なのに、なぜ市民の声に背を向けてしまうのでしょうか。さらに再編 交付金は市民の安全の代償、口止料ではないはずです。自治体は市民の傘なのだから、 再編交付金をもらうことと、国に対して安全対策の不十分さを指摘して、強く情報提供、 安全対策を求めることとは何ら矛盾しないのではないでしょうか。 9、横須賀市議会は過去2回にわたり、全員一致による原子力空母母港反対の決議をして きたのです。そして市民はこの問題でも市議会に大きな期待をもっているからこそ、5 万の署名がよせられたのです。市議会は横須賀市の動きに対して、そして国や米軍に対 して、受動的なだけで、お任せでよいのでしょうか。市の安全対策の姿勢は後退してい ないだろうか、市議会が昨年2月以降、この問題についてどれだけ成果を挙げてきたの か、原子力空母の配備によって市民の安全が本当に将来に渡って十分か、そのために市 が、市議会が、そして市民がいかなる努力を積み重ね、国や米軍に何を求めていくべき かを、この市議会で十分に話し合ってほしいのです。  そして安全は、各方面からの全ての努力の積み重ねで辛うじて維持されるものです。 住民投票を行うことは、市民の安全にとって最良の方法であるのと同時に、市や議会の 努力と矛盾しない努力の1つとして、プラスではあってもマイナスではありえず、皆さ んの立場からも反対する理由はないではありませんか。食わず嫌いはやめて、おおらか な気持ちで、試しに可決してやってみてから、再度その是非につき議論しようではあり ませんか。そして市民の安全を強化するために、条例案を修正してでも住民投票を実施 して市民の声をきいてほしいのです。と同時に市民の将来にわたる安全のため、是非市 の安全対策に対して、それを強化する方向で注文をつけてほしいのです。 10、議員のみなさん、今こそ私達が住み、愛するよこすかの町の為、この未曾有の市民 の安全の危機を乗り越える為、立場を超えみんなが力を合わせようではありませんか。 まちの活性化、元気なよこすかのための原点は市民のゲンキです。そして住民投票はそ のために、市民の統合、パワーアップのために最も有効な、あるいはいくつかの有効な 手段のうちの1つなのです。今しかないこの大切な配備前に是非市民のこれから数十年 間の安全を強化するために、住民投票を実施して頂くよう、心からお願いいたします。、